身近にあるけどその原理を理解してないものってたくさんある。私の場合その一つが電話の仕組みだった。電話ってなぜつながるのか、そもそも音を電気で伝えるってどういうことなのか、そんな子供のころからの素朴な疑問に応えてくれた一冊。携帯やIP電話の陰で話題に上ることが少なくなった固定電話。インターネットの仕組みは勉強したことがあるが固定電話の話はあまり知らない、昔の古い話だけになってしまうのではなく何故音が届くのかという原理を現在の携帯やIP電話と同じ角度から話して欲しい、という私と同じわがままな世代の人にお勧めです。
電話はなぜつながるのか 知っておきたいNTT電話、IP電話、携帯電話の基礎知識
- 作者: 米田正明
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2006/09/14
- メディア: 単行本
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以下、自分の言葉でポイントを整理してみる。
どうやって電気で音を伝えるのか
- 音は空気中の分子の振動。それを銅線の中の電子の振動にコピーする。コイルの中で磁石を動かせば電界が発生し電子が動くという原理があるので、空気の振動を振動版で磁石の振動に変換すればよい。実際には磁石ではなく電流の強弱を変える。例えば昔の黒電話では炭素の粉を詰めた抵抗を使う。声で粒の固まりが圧縮され抵抗が変わり電流の強弱につながる。
- アナログ音声をデジタル情報に変換するには PCM μ-Law というコーデックを使う。電話は 300Hz から 3400Hz までの音を伝えるので、サンプリング定理より 3400×2 = 6800Hz 。PCM は 8kHz にしている。量子化数は8ビットなので 8k×8 = 64kbps。
- デジタル化してビット列になった音声はデータ通信と同じ方法(QAMなど)で送ればよいが、音声はデータと異なり遅延が許されないので時分割多重の仕組みがある。
IP電話や携帯電話との比較
- 加入電話の共通線はIP電話のSIPのネットワークに相当。加入電話の音声通路はIP電話では音声ネットワークに相当。加入電話では音声通路はCIC番号で決定するがIP電話ではポート番号がこれに相当。携帯は無線なだけで仕組みは加入電話と同じ。
- IP電話のコーデックは加入電話と同じ PCM μ-Law (1秒間の声を64kビットで表す)。ただし、加入電話は8ビットずつデジタル化して多重化して送るが、IP電話は160バイトを1パケットとして送る。パケットにはタイミングを合わすために発話時のタイムスタンプが入っている。FOMA のコーデックは AMR と呼ばれる符号化ビットレートをフレーム毎に可変にできる仕組み。
- 携帯電話は、電源オンと同時に自分の位置を常にホームメモリーに登録する。位置情報は全国を数十に分けて管理しており、着信があるとそのエリアの全ての携帯に一斉呼び出しする。
- CDMA とは多くの音声を同じ周波数で同時に送る仕組み。送り手と受け手で同じ符号を持ち、送りたいビット列には符号を掛け合わせ、受け手は符号を足し算することで取り出せる。
その他
- 電子自体の動きは遅い(1秒間にせいぜい数十cm程度)が、電界が伝わる速度は非常に速い(光速の6、7割り)ので音はすぐに相手に伝わる。
- ナンバーディスプレイ。184を押しても非通知フラグがたつだけで共通線信号には電話番号が載っている。
専門知識というのは本質的に難しいものだ。そのためこの手の「分かりやすい」を売りした書籍は、本質となる難しい部分をうまくかわしているだけで結局「分からない」となるか、最初の導入は易しいが本質部分は難解なままで飛躍しすぎてやはり「分からない」となることが多い。専門ではないが興味を持つ第2、第3の分野では特にこの手の書籍に大きな期待を寄せるのだが、その狙いは「自分のレベルに合わせて」理解を上乗せすること。つまり本質的な部分を自分に分かるように説明してほしいというわがままだ。そういう意味でたまたま私に合っていただけかもしれないが、いやいやこの著者の説明はうまいと思う。