大脳生理学の最先端にいる著者が中高生に向けて講義をした内容をまとめた本。本の帯にある名講義とはまさにその通りでやばいくらい面白い。星5つ。
進化しすぎた脳―中高生と語る「大脳生理学」の最前線 (ブルーバックス)
- 作者: 池谷裕二
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/01/19
- メディア: 新書
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私はコンピュータにどうすれば人間のような知能を持たせられるかに興味がある。そのアプローチには大きく2つあって、1つは人間の脳を詳しく解析しその方法をコンピュータでその通りシュミレーションする方法。もう一つは人間がどうやっているかは別として結果として人間と同じ問題を解けるようにする方法。チェスや将棋のプログラムは後者だ。
コンピュータの正確無比に比べて、シナプスの正確性は驚くほど悪くて、10の9乗くらい確度が低いといわれている。
脳はそのあいまいさゆえに物事を抽象化して考えられる。このあいまいさを正確なコンピュータでいかに実現するかという部分が鍵なのだがまだまだ人工知能の研究はその核となる部分に迫れていない。大脳生理学の成果と人工知能の発展。それが手を結びいわゆる鉄腕アトムができるのはあと何年くらいなのだろうか?楽しみでもありその場に自分がいられそうに無くてちょっと寂しい。
本は興味深い話で満載だったが特に心に残ったのが以下の二つ。
一つは脳が体を支配するのではなく体が脳を支配するという考え方。人間は手が2本あって指が10本だったから、それに対応した脳が出来たのだと。脳のポテンシャルはこんなもんじゃなくて、体がもっと複雑だったら脳はもっと進化したと。「人は能力の30%パーセントしか使えないが残りの70%も引き出せる」というのは北斗神拳の極意だが、実際には人間は脳のポテンシャルの10%くらいしか使っていないらしい。言語や環境が脳を進化させるんだと。もっと拡大解釈すれば道具は重要だと。周囲の人に影響を受けるのは重要だと。
もう一つは人間は進化を止めたというくだり。
でもそれとは別に、我々はきちんと自分たちのやっていることの意味を認識しておかなければならない。いま人間のしていることは自然淘汰の原理に反している。いわば<逆進化>だよ。現代の医療技術がなければ排除されてしまっていた遺伝子を人間は保存している。この意味で人間はもはや進化を止めたといっていい。
人間以外の動物であれば自然淘汰されていくはずが医療の発達により人間は長生きする。だから強い種だけが残るという進化の仕組みが成立しない。言われてみれば確かにその通りだが、なんだかどきっとする言葉だった。
やっぱ研究やりたいなという気にさせてくれる本だった。現実はなかなか厳しいがどうする俺?