Schi Heil と叫ぶために

hiroakiuno's blog

書評 - 数学的にありえない

久しぶりに長編ミステリーを読んでみたのでご紹介。訳者のあとがきでも述べられているが、本書の芸風はダ・ヴィンチ・コードに似ている。ただしダ・ヴィンチ・コードを芸術学・宗教学トリビアミステリーと呼ぶとしたら、本書は数学・物理学トリビアミステリーと呼べると思う。最近あまり推理小説を読んでいないが、ダ・ヴィンチ・コードのようなある特定分野の専門知識を背景としたサスペンスは現在のエンターテイメント小説界では一つの潮流をなしているらしい。我々読み手としては犯人を探るだけよりも圧倒的に面白く大歓迎だが、一方の書き手としては大変だろうなとも思ったり。

さて主人公のケインは予知能力を持つ数学者。ミステリー小説で主人公が予知能力を持つという設定は珍しくもなんともないが、本書が他と違うのはつじつまの合わない強引な設定ではなく、ラプラスの魔という物理学の概念を持ち出して、論理的に(ある意味無理に小難しく)描いている点だ。もちろんミステリー小説としての面白さも十分だが、そういった数学・物理学のうんちくを頭の中で整理しながら読むのがなかなか楽しい。主に通勤時間の電車の中で読み進めたが、家に着いてネットで知識を補足しながら読むの方法はお勧めの読み方だと思う。

もう一つ興味深かったのがケインの未来予知の方法。これが意外にも ボナンザの予測 と似ている点。未来は一意に決まるのではなく無限の選択肢の中から確率的に選ばれるものだとして、その選択肢がすべて見えるケインはその中から最も確率が高いものを選ぶが、これは相手の手を幅優先探索プラス枝狩りで予測するボナンザの戦略と同じだ。

どの道のも無限の横道があり、その多くは、ケインにははかりしれないほどの恐ろしい波紋を呼ぶ。時間の余裕さえあれば、もっといい決断が下せただろう。しかし、もう時間がなかった。残されているのは、13.7秒だけだ。ケインは正しい可能性がもっとも高そうで、間違っている可能性が最も低そうな道を選んだ。半分は自分の"知識"に、もう半分は勘に頼って。

数学好き・ミステリー好き・うんちく好き の少なくとも2つが当てはまればお勧めの一冊です。

数学的にありえない〈上〉

数学的にありえない〈上〉

数学的にありえない〈下〉

数学的にありえない〈下〉