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hiroakiuno's blog

日本進化論 - 二〇二〇年に向けて

未来の予測など当たるものではない。「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」というのはアラン・ケイの有名な言葉だが、「2020年に向けて」という副題のつけられた本書には日本と世界がこれから進むべき道がしるされている。

日本進化論―二〇二〇年に向けて (幻冬舎新書)

日本進化論―二〇二〇年に向けて (幻冬舎新書)

著者は世界経済や世界の企業経営に造詣の深い元ソニーCEOの出井さん。さすがだなと思ったのはグローバルな観点でものを眺めるその見方。例えば「現在の日本はフランスの五月革命に似ている」とか「21世紀には都市国家の時代がもう一度やってくるかもしれない」という見解や「コーポレートガバナンスを国家に適応する話」などは一読の価値あり。また以下のように物事の整理の仕方が非常にうまい。

日本経済がいわゆる「失われた10年」から脱し、ここ数年で好調に転じた理由は、よくABCDで表現されます。「A」はアメリカ経済の好況、「B」は銀行の不良債権処理、「C」が中国経済の高成長、「D」がデジタル景気です。
しかしいまの日本社会は同時に大きなリスクをいくつも抱えています。
(中略)

  • A: Aging(高齢化)
  • B: Bureaucratism(官僚主義)
  • C: Closed Society(閉鎖社会)
  • D: Domestic Focus(国内中心主義)
  • E: Environment(環境)、Energy(エネルギー)

他にも経済を「R:リアル」と「V: バーチャル」で整理したり、Vの代表格 google を「ムーアの法則」「メトカーフの法則」「ギルダーの法則」で説明したりと捕らえ方やプレゼンテーションが非常にうまい。

一方で気になったのは3章と4章で技術的な要素から将来を予測している部分。ネットに関しても「ネットワーク社会が産業社会を変化させた!」というタイトルで、IPv6ユビキタスコンピューティングさらには量子コンピューターにまで幅広く触れられているが、現在のネットを語る上で不可欠なオープンソース的な考え方やユーザ参加型の経済について語られていない点である。例えば mixi についても触れられてはいるが電通との対比でビジネスモデルを語るにとどまっている。ピアプロダクションやプロシューマーコミュニティに関して、それが今後どのように世界経済に影響を及ぼすかという予測に程度の差はあれ、現在これを抜きにネットを語ることは出来ない。そのあたりでどのような意見をお持ちなのか特に百度の取締役も務める著者の意見が聞きたかった。