Schi Heil と叫ぶために

hiroakiuno's blog

書評 - 新版暗号技術入門 秘密の国のアリス

暗号技術を一通り丁寧に解説している結城さんの本。最近仕事で DRM の知識が必要になったところ先輩から薦められた。もちろんこの本の存在は知っていたのだが、まだ読んでなかった。

新版暗号技術入門 秘密の国のアリス

新版暗号技術入門 秘密の国のアリス

暗号のようなややこしい話をさくっと理解できる人ってたまに出会うのだが、そういう人って本当に頭がいい人だと思う。私は疑問を整理しゆっくり一つずつ解いていくタイプなので、本書のような順を追った丁寧な解説は非常に読んでいて心地よい。特に本書では、一つ一つの技術に対して素朴な(そして深い)疑問が投げかけられており、それに対して必ずわかりやすく答えている。特に9章のデジタル署名のところのいくつかの疑問とその解答はこの本の売りだと思う。

これは一般論だが、わかりやすい本というのは、立ち止まらずがんがん読める代わりに頭に残らない欠点がある。本書もそこはさすがにそうで、さくさく読み進められたのだが、その後実際に DRM 関係のドキュメントを読んでいくと、理解していたつもりが実はわかりやすい説明に助けられていただけで、十分理解できていなかったことに気づく。

本当は上記の「疑問」のようなものは、すぐに答えをもらわずに時間をかけて悩む方がいいのかもしれない。贅沢な話だが。そういう意味では、一度読んだあと実際の応用例で一度悩み、もう一度この本に戻ったときに本当の理解がやってくる気がする。そして戻ったときにちゃんと答えが書いてあるかどうかが、「わかりやすい本」が「単に難しい部分を避けただけの本」なのか、それとも「本質は難しいがそれをゆっくり越えていく本」なのかの違いであり、本書は後者だと思った。