今年も NHK の技研公開に行ってきた。
事前に読んでいたニュース記事によると、今年の目玉はアーカイブ・オンデマンド配信サービスのような気がしていたが、実際に行ってみると NHK 的には例年通りスーパーハイビジョンを前面押し出ししており、特に今年は撮影、配信、表示という各方面でそれぞれが実用化に向かっていることを強くアピールしている印象を受けた。去年と比較してコンピュータビジョン系の発表が少なかった気もした。
パンフレットや会場のポスターで紹介されているような解説は他に譲るとして、ここでは私の感想や実際に質問した内容などを中心に報告したい。
未来の立体テレビ
裸眼で動画の立体視が出来るシステム。一言で言うと複数の角度から撮影した映像を一つに重ね合わせ、それを人はレンズを通して見ることでその角度から見た映像が目に映るという仕組み。理解するまでに結構時間がかかったが立体視のポイントはレンズアレーと呼ばれるレンズにある。どうやら人間の目はピントの合った複数の映像を同時に見るとそれが同じ箇所から発せられていると感じるらしい。
ワンセグ連結再送信システム
地下やビルの中などでもワンセグを受信できるように、例えば屋上で受信した信号を再構成し別のチャンネルを用いて再転送するという話。
Q. 携帯電話を地下で使えるようにするにはアンテナを立てる、つまり同じ周波数帯を使っているのに、なぜワンセグだと別の周波数帯を使うのですか?
A. 混信を防止するため。とりあえず放送なので固定の電波を乱してはならないという制約が強い。またそうすることで独自コンテンツも扱える。
スーパーハイビジョン用超高コントラストプロジェクター
コントラスト比 100万対1のプロジェクター。かなり初歩的な質問を一つ。
Q. コントラスト比ってどうやって計算するのですか?
A. 白(最大)と黒(最小)の明るさの差で、例えば白が100カンデラ平方メートル、黒が1/10000 カンデラ平方メートルだと、100万対1。
黒が0じゃない(0にできない)というのがポイントで、黒がもし0に出来たらコントラストは無限大ということか。納得。
薄型光ディスク
ブルーレイが普及した現在でもハイビジョンをリアルタイムで録画するにはビットレートが足りないので放送局は磁気テープを用いている。それを置き換えたい。バッファとしての HDD の利用はあるがやはりリアルタイムがうれしい。
薄いことで速く回せる。回転速度が速いことでビットレートをあげられる。高速回転に耐えられるようにとディスクを硬くするのではなく、むしろやわらかくするという逆転の発想だったらしい。
映像コンテンツの検索・活用技術
メタデータを用いた映像の編集や検索の研究はこれまでにも数多く見たことがあるが、一つブレークスルーを感じたのがここでダイジェスト映像作成に使われていた技術。
EPG に含まれている番組内容説明のテキスト情報と、アナウンサーが発した言葉を比較し、アナウンサーがしゃべった中で EPG の文章に一番マッチする部分をその番組の中心部分と考えて、その時間帯の映像をダイジェストとする。映像を一切使わないのが斬新。
IPネットワークの放送利用技術
電波(例えばワンセグ)は端末に直接映像が入ってくるから機器の中でチャンネルスキャンすればよいが、IP の場合 IP アドレスが割り当てられないとそもそも受信が出来ないので…という説明が分かりやすかった。機器の場所は GPS ではなく DHCP サーバーが与えている。DHCP にはオプション領域という自由に使える領域があるらしい。SIP を機器の接続状態の管理に使っていた。
高速移動体受信装置
400km/h 位の高速移動体でのハイビジョン受信。
Q.携帯は新幹線の中でも使えるが何か違うのか?
A.移動によって問題がおきる原理は携帯も同じだが携帯とは情報量が違う。
Q.マルチパスの問題なら機器が止まっていても発生するのでは?
A.もちろんマルチパスは止まっていてもおきる。それは市販のテレビでも対応している。移動体だとドップラー効果が生じ周波数シフトがおきるのでそれが難しい。止まっている機器だとドップラー効果は起きない。
マルチパスの中から一つを選びさらに周波数シフトを補正するという話。(だと思う)
フレキシブルディスプレイ用スピーカー
なんとこれがスピーカー。
これだけの研究を年に一回しか発表しないのはもったいない。是非 NHK の研究者の皆さんにはブログを書いて欲しいと思った。
NHK技研公開2006 メモ (その1) - Schi Heil と叫ぶために
NHK技研公開2006 メモ (その2) - Schi Heil と叫ぶために
NHK技研公開2006 メモ (その3) - Schi Heil と叫ぶために
2007-05-31
平日の研究発表について詳しくレポートされているブログを発見。
IT屋もりたの今時パソコン日記: NHKの技術研究成果をもっと国民生活へ活用しよう!-NHK技研公開2007・研究発表より
あと、個人的には「臨場感と空間認知」というポスター展示が見たかった。